もろみ先輩読書

皆さん数学してますか?

まずこの記事は次のような方のためになったらと思いながら書いています。

  • 大学で数学を専攻しなかったけど社会人になって数学をしたいという方
  • 仕事・研究のために数学書を読むんだけど書いてあることがよくわからないという方

僕自身このような経験がありましたので少し自分の話を交えながら,僕が考える「数学をすることのメリット」や「独学の方法」をご紹介したいと思います。

この記事から独学への第一歩を踏み出す方や数学に興味を持ってくれる方が少しでもいてくれたら嬉しいです。

本稿では自らの経験から思うこと,自分で読んだ本のオススメのみ書きますので先にご了承ください。

数学をすることのメリット

「数学なんて日常生活で使わないのに何で勉強しないといけないんだ」と考えている方は多いと思います。

実際僕も高校生まではそう思っていました笑

しかし今はそう思っておらず自分の自由な時間を数学に投資しています。勿論これは数学をすることにメリットがあると思っているからです。

ここでは僕が思う数学をすることに対するメリットを幾つかご紹介します。

・論理的思考が身につく

これは物事を筋道を立てて考えることが出来るという事で,この論理的思考は色々な場面に必要な考え方になってきます。

例えば,論理的思考ができると相手に何か説明する際に根拠のある順序だった説明が出来るようになり伝わりやすくなったり,相手が納得できる説明が出来るようになります。

これは話を聞く場合にも同じで相手の言っている内容を論理的に考えながら受け取ることが出来るため,情報の正しさの吟味や重要なポイントの要約や内容の咀嚼が出来るようになります。

このような事から一見全く数学を必要としないような営業職等でも数学をして論理的思考を身につける事を推奨している企業もあるようです。

・物理現象の裏に潜む数式が見えるようになる

皆さん普段生活していて身の回りに起こる物理現象に疑問を感じたことはあるでしょうか。

例えばボールを投げたら放物線を描いて地面に落ちることや石を池に投げ入れたら円状に模様ができることなど,普通に生きていればよく見るから“あたりまえ”になっているようなことも,裏には数式が潜んでいます。

このあたりまえに疑問を感じるようになれば,色々な物理現象のアナロジー(類似点)が見えてきたり,普段見ている世界が違って見えるかと思います。

・一生変わらず続けられる趣味になる

スポーツやDIYなど様々な趣味があると思いますが,年齢を重ねると共に体の衰えから思うようなパフォーマンスが出来なくなったり,同じことを繰り返すことで飽きが出てくるものが多いのではないでしょうか。

これに対して数学は年齢に関わらず楽しめる趣味になります!

勿論数学をするのに必要なのは本と紙とペンくらいなので(極論何も要らないかもしれませんが笑),体の衰えに関わらず出来ます。

更に数学は(今の人間くらいの寿命なら)一生掛けても勉強しきれない程広い世界ですので常に知らないことを新鮮な気持ちで勉強出来ます。

独学の方法

初学者が大学レベルの数学を独学するのはきちんと順序を踏まないと結構難しいです。 ※ただし天才は除く

ここで少し僕自身の話をします。

高校では数学・物理が好きだったのですが,大学は就職を見越して情報系に進みました。

大学1年生の時に簡単な線形代数や解析は学んだのですが,以降は数学は殆ど勉強する事なく卒業研究に取り組みました。

そこで確率論などの数学に直面して自分の無知さ,また数学の面白さに気づきました。

4年生の研究ではコーディング等で精一杯で数学を基礎から勉強する時間はなかったので,僕は社会人から数学を独学することを決めました。

独学するためにまずはわかり易い数学書を探しました。これ気をつけた方が良いと思うのですが

Amazonでレビューを見ると「初学者でもわかり易いです」なんて書かれているけど実際に読んでみると全くちんぷんかんぷん

って事はよくあります。

これは本格的な数学書のレビューを書いている方が数学科の学生など専門家に偏っているからだと思います。

数学をある程度学んでいる,若しくは素養が十分にある方から見れば初学者向けでも本当に1からやる人にとっては難しいという事が往々にしてありますのでレビューを鵜呑みにして購入するのは注意した方が良いです。(実際僕は結構苦しみました…)

と,このような事もあって「自分だけで学術本を読む」以外の独学の方法を模索しました。

ここでは僕が実際にやってみた方法とそのメリット・デメリットをお伝えします。
※勿論自分1人で数学書を読み進める事ができる方は自分のペースでどんどん進めていって良いと思います

・数学の勉強会に参加する

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが,最近connpass等のwebサイトで興味が近い人を募って(どこかのスペースを借りて)勉強会を開くという事が増えてきています。

connpass

勉強会の分野や形式は様々で(特にエンジニア向けの内容が多いですが),数学の本の輪読なんかもあったりします。

やはり自分1人で数学書を読むと,負担が大きいですし分からない箇所に出くわしたときなかなか解決出来なかったりします。

多人数で読む事で(一般には)1人1人の負担を減らせますし,決まった日程でしっかり見通しを立てて進めるというのは精神的にも楽です。

更にこういった勉強会を主催される方は結構その分野に詳しかったりします。

ちなみに参加費も無料のものが結構多いです!

デメリットとしては田舎ではあまり開かれていないというところと,主催者の予定で決定する場合が多いため参加出来ない場合もあるというところでしょうか。

・Skype勉強会などオンラインで他人と勉強する

こちらはあまり一般に知られていないのではないでしょうか。

実は上述したconnpassでも募集されていたりします。

僕がcompass以外で利用したことがあるのは,Skype数学勉強会というものです。

Skype数学勉強会

こちらはWebサイトからSkypeのグループに参加して,そこで現在開催中の勉強会から自分の興味のある勉強会に参加するという形式を取っています。

こちらのメリットは,数学好きの方が沢山集まっているのでもし自分のやりたい分野がなかった場合でも自分でメンバーを募って勉強会を開催できるところ,家から参加出来るので非常に楽なところ,リアルタイムで更新されるホワイトボードを利用するため見やすく,誰でも書き込めるため議論に便利であるところ等でしょうか。

デメリットとしては,(匿名性が強いためというのもあってか)回を重ねる毎に参加者が減っていく傾向があるため,本当にやりたいメンバーを集めることが重要になるところ,

開催される勉強会が減ってきていることが挙げられます。

以前は結構盛り上がっていましたが,今だとcompassやSNSで呼び掛けたりする方がいいかもしれません。

・大学の講義動画で勉強する

これは最近は結構メジャーになってきた方法かもしれませんが,俗に言うOCW(Open Course Ware)みたいなもので勉強するということです。

世界的に増えてきていますが,日本の大学ですと東京大学,京都大学,北海道大学などかなりの数の大学がOCWを進めています。例として東工大のOCWサイトをお示ししております。

東工大OCW

講義資料は勿論,講義動画を上げている場合もあり非常に便利に利用できます。

こちらのメリットはなんと言ってもわかり易さや内容の正確さかと思います。

ご専門の先生の(学生に向けての)講義ですので本では書いていないような噛み砕いた内容などを知ることが出来ます。

また,勉強家等とは違って完全に自分のペースで進める事ができ,分からない部分や理解が不十分な部分は再度見直すことが出来る点も良いです。

デメリットとしては動画の数が少ない事や,基本的な内容しか扱っていないものが多いところでしょうか。

海外のOCWを見ると更に進んだ内容を扱っているものもありますので,もし英語が多少出来るという方は検索してみて下さい。

オススメの数学書

ここまでは独学の方法を幾つかご紹介しましたが,これらはやはり自分の学びたい(または不足している)範囲をピンポイントでは勉強出来ない場合が多いです。

ですのでやはり上記の方法に加えて補助的に数学書を手元に置いて適宜読むことは重要かと思います。

数学の中にも沢山の分野があるのですが,今回は難易度のみに焦点を当てて初学者でも読みやすいと思われる物のみご紹介します。

・数学ガールシリーズ (1〜6)

かなり有名なシリーズですが,これは本当にオススメです。

この本の良いところは前提知識なく面白く読めるところだと思います。

1冊の中に数学的基礎から始めて主題の高難易度の内容までを含んでいますが,全体を通して主人公とその周りのユニークなキャラクター達が織りなす物語の中で非常にわかり易く数学の面白さを伝えてくれます。

僕もこの本を持っていますが,普通の数学書に書いていないその数式の持つイメージを的確に捉えているので今でもたまに読みたくなります。

買って損はしない本だと思いますので是非お試し下さい。物語はその巻毎に完結している形ですので興味のある話題を手にとってもいいかもしれません。

難易度としては(個人的には)1が最も簡単だと思いますので特に拘りが無ければ取り敢えず1巻から始めて良いと思います。

・ふたりの微積分

数学ガールに続いて読み物系をもう一冊挙げておきます。

こちらはSteven Strogatzさんという複雑系の研究者が書いた本です。

筆者の高校時代の数学教師との文通を中心に物語が進んでいきます。

その中で様々な数学の問題が出てくるのですが,どれも面白く思わず感心してしまいます。

こちらも基礎知識は特に必要としません。

・集合と位相

現代数学は集合論を基に作り上げられています。

高校までは意識する必要はなかったと思いますが,大学数学では何の集合の要素に対して演算をしているのかということを意識するのはとても重要です。

どの分野でも集合・位相の知識は前提として進められる場合が多いため,大学数学に入門するにはまず簡単に集合・位相を勉強するのが良いかと思います。

この本は図を交えながら非常に易しく集合・位相の基礎を書いています。

ちなみに集合・位相の本で検索すると松坂先生の「集合・位相入門」が上位に出てくるかと思います。

多くの方が高評価をしており勿論素晴らしい内容であることは間違いないのですが,ただ数学の入門書としては難しすぎるでしょう。

数学書を読むための基礎知識の獲得という意味ではそこまで難しい内容は必要ないかと思います。

まずは簡単なものから読んでいきましょう。

・これならわかる応用数学教室

俗に言う数学書ではないのですが,丁寧な説明に非常にためになる内容が書かれている本だと思いますのでご紹介します。

直交性をテーマに信号処理系の内容を初歩的内容から実践的内容までを含んでいます。

特に工学にも興味があるという方には是非読んでみて頂きたいです。

実は「直交性」は非常に重要な概念で,数学で言うところの関数解析学との関わりが深いのでそちらの勉強の準備として読むのもいいかと思います。

・多様体の基礎

この本は数学界隈でラノベと呼ばれている超有名な数学書です。

ここまで挙げた本とはテイストがガラッと変わっており,ガチな数学書です。

最初は定義と証明ばかりで「うわっ…」となるかもしれませんが,数学書とはそういうものです笑

何故この本からかと言うと,割と色々な分野で使う内容をかなりしっかり(行間がないとか言います)と説明しながら厳密に証明してくれているからです。

難しい数学書が“読めない”のは多量の前提知識を要求してくること行間が広い(説明が十分でない)ことに起因することが多いです。

一方この「多様体の基礎」は前提知識なしで読める(self-containedと表現することもあります)上に,しっかり定義・定理及びその証明が書かれており数学書を読む練習に最適です。

初めて読むのは大変だと思いますが,是非頑張って読み切ってみてください。

・Nonlinear Dynamics and Chaos

最後におまけで読みやすく面白い洋書をご紹介します。

Steven Strogatzさん著の「Nonlinear Dynamics and Chaos」という本です。
この本の著者は上で紹介した「ふたりの微積分」を執筆された方です。

内容としては常微分方程式を幾何的(視覚的)に解く(厳密には解析する)というものです。
例題が多く,虫の大発生,蛍の同期現象など面白いものばかりです。

数学のレベルとしては非常に簡単で「多様体の基礎」が読めた方ならすらすら読めると思います。
英語も分かり易い単語で書かれており,洋書を読むトレーニングになると思います。

おわりに

数学を難しい学問・才能が無ければ出来ない学問だと思っている方は多いと思います。

でも数学は”定義(記号のお約束)→それを使った定理等の証明(そこからわかる事実を確かめる作業)”だけから出来ているため,

わからない問題に出くわしたら,ちゃんと定義に戻って少しずつ自分のペースで順を追って進めて行けば誰でも理解できる学問だと思っています。

数学に興味がある方,若しくはこの記事を読んで少しでも興味を持たれた方,自分には無理だなんて思わずにこれを機に第一歩を踏み出してみませんか?