フーリエ変換は特筆すべき性質が幾つもあり,実際に色々な場面で登場します。

本記事ではその内の数個を用語の定義を確認しつつご紹介します。

これらは今後の様々な定理等の性質に使用する意味でも,フーリエ変換の数学的美しさを垣間見る意味でも役に立ちます。

また本記事では$f(t)$のフーリエ変換を$\mathscr{F}[f(t)], F(\omega)$の逆フーリエ変換を$\mathscr{F}^{-1}[F(\omega)]$と表記する場合がありますのでご注意下さい。

それでは本題です。

フーリエ変換の線形性

フーリエ変換は線形な積分作用素です。(更に進んだことを言うとノルムを保つユニタリ作用素でもあります)

線形性という言葉を初めて聞く方もいるかもしれませんので簡単に定義をおさらいしておきます。

写像$f$が線形

$\Leftrightarrow$

$\forall x, y \in {\rm dom}(f)$と$\forall a \in \mathbb{K}$に対して以下の(i), (ii)が成り立つ

(i) 加法性

$$f(x+y) = f(x) + f(y)$$

(ii) 斉次性

$$f(ax) = af(x)$$

このことを踏まえてフーリエ変換では以下の式が成り立ちます。

\begin{align}
\mathscr{F}[f(t)+g(t)] &= \mathscr{F}[f(t)] + \mathscr{F}[g(t)] \notag \\
\notag \\
\mathscr{F}[af(t)] &= a \mathscr{F}[f(t)] \notag
\end{align}

proof:

\begin{align}
\mathscr{F}[f(t)+g(t)] &= \int_{-\infty}^{\infty} {f(t) + g(t)} e^{-i\omega t} dt \notag \\
&= \int_{-\infty}^{\infty} f(t) e^{-i\omega t} dt + \int_{-\infty}^{\infty} g(t) e^{-i\omega t} dt \notag \\
&= \mathscr{F}[f(t)] + \mathscr{F}[g(t)] \notag \\
\end{align}

\begin{align}
\mathscr{F}[af(t)] &= \int_{-\infty}^{\infty} af(t) e^{-i\omega t} dt \notag \\
&= a \mathscr{F}[f(t)] \notag \\
\end{align}

僕は線形性については殆ど直線みたいなものをイメージしています。

例えば$f(x) = x$は線形ですが,$f(x) = x^{2}$は非線形です。

とりあえずそういったイメージで捉えるといいかと思います。

シフトの定理

$t^{\prime}$だけ遅延した信号$f(t – t^{\prime})$のフーリエ変換は

$$\mathscr{F}[f(t-t^{\prime})] = \mathscr{F}[f(t)] e^{-i \omega t^{\prime}}$$

となる。

proof:

$$ \mathscr{F}[f(t-t^{\prime})] = \int_{-\infty}^{\infty} f(t-t^{\prime}) e^{-i\omega t} dt $$

ここで$\tau := t – t^{\prime}$と変数変換すると積分範囲は変わらず

\begin{align}
\mathscr{F}[f(t-t^{\prime})] &= \int_{-\infty}^{\infty} f(\tau) e^{-i\omega (\tau + t^{\prime})} d\tau \notag \\
&= { \int_{-\infty}^{\infty} f(\tau) e^{-i\omega \tau} d\tau } e^{-i \omega t^{\prime}} \notag \\
&= \mathscr{F}[f(t)] e^{-i \omega t^{\prime}}
\end{align}

シフトの定理は変換前の時間領域での遅延が,周波数領域では位相のシフトになっていることを表しています。

これは様々な場面で利用しますので是非覚えて下さい。

畳み込み定理

畳み込みに対する性質ですが,先に畳み込みという概念を説明します。

$f(t)$と$g(t)$の畳み込み$(f \ast g) (t)$は以下のように数式で定義されます。

$$(f \ast g) (t) := \int_{-\infty}^{\infty} f(t-t^{\prime}) g(t^{\prime}) dt^{\prime}$$

数式だけ見てもよくわかりませんよね?僕も初めて見たとき何を言っているのかさっぱりでした。ただし

実は畳み込みは現実で頻繁に見られます。

例えば今いる部屋で手を叩いてみて下さい。

「パーン」という感じで少し音が後に残る(これを残響といいます)と思いますが,これは手を叩いたことによって発生した音「パチッ」に部屋の特性(インパルス応答)というものが畳み込まれた音を聞いていることになります。

では次にお風呂で手を叩いてみて下さい。さっきより長く響きますよね?

これはお風呂のインパルス応答が長い(減衰が遅い)からなんですね。

畳み込みのイメージ

こんな感じである時刻で信号が発生したときにその時刻から少し後まで影響が残るイメージです。

今考えた信号は「パチッ」という一瞬だけの信号でしたが,連続信号なら各時刻から影響が出てそれの足し合わせが実際に聞く音になります。

ではフーリエ変換の畳み込みの定理です。

\begin{align}
\mathscr{F}[(f \ast g) (t)] &= \mathscr{F}[f(t)] \mathscr{F}[g(t)] \notag \\
\notag \\
\mathscr{F}[f(t) g(t)] &= \frac{1}{2 \pi} \mathscr{F}[f(t)] \ast \mathscr{F}[g(t)] \notag \\
\end{align}

proof:

\begin{align}
\mathscr{F}[(f \ast g) (t)] &= \mathscr{F}\left [\int_{-\infty}^{\infty} f(t-t^{\prime}) g(t^{\prime}) dt^{\prime} \right ] \notag \\
&= \int_{-\infty}^{\infty} {\int_{-\infty}^{\infty} f(t-t^{\prime}) g(t^{\prime}) dt^{\prime}} e^{-i \omega t} dt \notag \\
&= \int_{-\infty}^{\infty} {\int_{-\infty}^{\infty} f(t-t^{\prime}) e^{-i\omega t} dt} g(t^{\prime}) dt^{\prime} \notag \\
&= \int_{-\infty}^{\infty} \mathscr{F}[f(t)] e^{-i\omega t^{\prime}} g(t^{\prime}) dt^{\prime} \notag \\
&= \mathscr{F}[f(t)] \int_{-\infty}^{\infty} g(t^{\prime}) e^{-i\omega t^{\prime}} dt^{\prime} \notag \\
&= \mathscr{F}[f(t)] \mathscr{F}[g(t)]
\end{align}

ここで3〜4行目の=はシフトの定理を使っています。

\begin{align}
\mathscr{F}[f(t) g(t)] &= \int_{-\infty}^{\infty} f(t) g(t) e^{-i\omega t} dt \notag \\
&= \int_{-\infty}^{\infty} f(t) {\frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} G(\omega^{\prime}) e^{i\omega^{\prime} t} d\omega^{\prime}} e^{-i\omega t} dt \notag \\
&= \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} G(\omega^{\prime}) {\int_{-\infty}^{\infty} f(t) e^{-i(\omega – \omega^{\prime}) t} dt } d\omega^{\prime} \notag \\
&= \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} G(\omega^{\prime}) F(\omega – \omega^{\prime}) d\omega^{\prime} \ &= \frac{1}{2\pi} F(\omega) \ast G(\omega) \notag \\
&= \frac{1}{2\pi} \mathscr{F}[f(t)] \ast \mathscr{F}[g(t)]
\end{align}

微分した関数のフーリエ変換

最後に$\frac{d}{dt} f(t)$のフーリエ変換です。

$$ \mathscr{F}[\frac{d}{dt} f(t)] = i \omega \mathscr{F}[f] $$

証明の方法は幾つかありますが僕が美しいと思う証明を書きます。

\begin{align}
\frac{d}{dt} f(t) &= \frac{d}{dt} { \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} F(\omega) e^{i\omega t} d\omega } \notag \\
&= { \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} i \omega F(\omega) e^{i\omega t} d\omega } \notag \\
&= \mathscr{F}^{-1} [i \omega F(\omega)] \notag \\
\Rightarrow \mathscr{F}[\frac{d}{dt} f(t)] &= i \omega F(\omega) = i \omega \mathscr{F}[f]
\end{align}

まとめ

フーリエ変換に登場する重要な性質を幾つかご紹介しました。

この辺りの基本事項はたまに必要になるのに忘れちゃうんですよね。

フーリエ変換について分かりやすく書かれている本としては以下がオススメです。主題としては画像となっていますが,面白くて可読性の高い本ですので一度手にとってみて下さい。

この記事がいつか誰かのお役に立てれば幸いです。