本記事では一般$d$次元における極座標への置換積分の方法について解説します。
まず一般次元の置換積分に関して一般論を述べた後に,極座標の場合どのようになるのかを考えていきます。
目次
置換積分の一般論
まず一般に$\mathbb{R}^{d}$上の置換積分について述べておきます。
座標$(x_{1}, \ldots , x_{d})$の$\mathbb{R}^{d}$上領域$\Omega$を
$$
x_{k} = \varphi_{k} (\xi_{1}, \ldots, \xi_{d}) \;\;\;\; (k=1, \ldots, d)
$$
によって$(\xi_{1}, \ldots, \xi_{d})$の領域$\Delta$に写すとき,$\varphi_{1}, \ldots, \varphi_{d}$が$\Delta$の境界まで含めて$C^{1}$級ならば,$\Omega$で積分可能な$f(x_{1}, \ldots, x_{d})$に対して
$$
\int_{\Omega} f(x_{1}, \ldots , x_{d}) dx_{1} \cdots dx_{d} = \int_{\Delta} f(\varphi_{1}(\xi_{1}, \ldots, \xi_{d}), \ldots, \varphi_{d}(\xi_{1}, \ldots, \xi_{d})) \left| \frac{\partial (\varphi_{1}, \ldots, \varphi_{d})}{\partial (\xi_{1}, \ldots, \xi_{d})} \right| d\xi_{1} \cdots d\xi_{d}
$$
となります。ベクトル表記によってもう少しスッキリ書くとすれば次のようになります。
$$
\int_{\Omega} f(\boldsymbol{x}) d\boldsymbol{x} = \int_{\Delta} f(\boldsymbol{\varphi}(\boldsymbol{\xi})) \left| \frac{\partial \boldsymbol{\varphi}}{\partial \boldsymbol{\xi}} \right| d\boldsymbol{\xi}
$$
ここで$\left| \frac{\partial (\varphi_{1}, \ldots, \varphi_{d})}{\partial (\xi_{1}, \ldots, \xi_{d})} \right|$はヤコビアンと呼ばれていて次のように定義されています。
$$
\left| \frac{\partial (\varphi_{1}, \ldots, \varphi_{d})}{\partial (\xi_{1}, \ldots, \xi_{d})} \right| = \left| \begin{array}{ccc}
\frac{\partial \varphi_{1}}{\partial \xi_{1}} & \cdots & \frac{\partial \varphi_{1}}{\partial \xi_{d}} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
\frac{\partial \varphi_{d}}{\partial \xi_{1}} & \cdots & \frac{\partial \varphi_{d}}{\partial \xi_{d}}
\end{array} \right|
$$
ここでヤコビアンは幾何的には体積として考えるのでdetの絶対値になっている(負の値を取らない)ことに注意してください。
極座標への置換積分
それでは上記の一般論に沿ってデカルト座標$(x_{1}, \ldots , x_{d})$から極座標$(r, \theta_{1}, \ldots , \theta_{d-1})$への変換を考えてみましょう。
まず高次元の極座標は次のように書けます。
$$
\begin{cases}
x_{1} = r \cos \theta_{1} \\
x_{2} = r \sin \theta_{1} \cos \theta_{2} \\
x_{3} = r \sin \theta_{1} \sin \theta_{2} \cos \theta_{3} \\
\vdots \\
x_{d-1} = r \sin \theta_{1} \sin \theta_{2} \cdots \sin \theta_{d-2} \cos \theta_{d-1} \\
x_{d} = r \sin \theta_{1} \sin \theta_{2} \cdots \sin \theta_{d-2} \sin \theta_{d-1}
\end{cases}
$$
もしくは次のようにも表記できます。
$$
x_{k} = \begin{cases}
r \cos \theta_{k} \prod_{i=1}^{k-1} \sin \theta_{i} & (k=1, \ldots, d-1) \\
r \prod_{i=1}^{d-1} \sin \theta_{i} & (k=d)
\end{cases}
$$
ここで極座標での変数の範囲は次のようになります。
$$
\begin{cases}
r \in [0, \infty) \\
\theta_{k} \in [0, \pi] & (k=1, \ldots, d-2) \\
\theta_{d-1} \in [0, 2\pi)
\end{cases}
$$
座標の取り方には自由度があるので,ここではあくまでその1例を挙げているということに注意してください。
なぜこのようになるかという事については例えば以下の書籍に記述があります。
群論の本としても非常に面白く,正多面体やあみだくじなど具体例を多く用いながら進めていくため諸学者でも分かり易いのでオススメです。
以上より,元のデカルト座標形で積分範囲が$\mathbb{R}^{d}$全体であるような積分は次のように書き換えられます。
$$
\int_{\mathbb{R}^{d}} f(\boldsymbol{x}) d\boldsymbol{x} = \int_{0}^{2\pi} \! \int_{0}^{\pi} \! \int_{0}^{\infty} f(r, \theta_{1}, \ldots, \theta_{d-1}) \left| \frac{\partial (x_{1}, \ldots , x_{d})}{\partial (r, \theta_{1}, \ldots, \theta_{d-1})} \right| dr d\theta_{1} \cdots d\theta_{d-1}
$$
あと必要なのはヤコビアンですので次はこれについて考えていきましょう!
高次元極座標のヤコビアン
2次元や3次元であれば極座標のヤコビアンは簡単に求まって,$r$や$r^{2} \sin \theta$となることはよく知られているかと思います。
これは2次元,3次元であれば行列式の計算が容易なためです。
一般次元について考えるためには少し面倒な漸化式を立てる必要がありますが,計算としてはそこまで難しいものではないので頑張って導出していきましょう。
まずヤコビ行列の要素は偏微分になるので先にこちらを計算します。偏微分自体は簡単で次のようになります。
※$l \in \{ 1, \ldots, d-1 \}$としています
\begin{align}
\frac{\partial x_{k}}{\partial r} &= \begin{cases}
\cos \theta_{k} \prod_{i=1}^{k-1} \sin \theta_{i} & (k=1, \ldots, d-1) \\
\prod_{i=1}^{d-1} \sin \theta_{i} & (k=d)
\end{cases} \\
\frac{\partial x_{k}}{\partial \theta_{l}} &= \begin{cases}
r \cos \theta_{k} \cos \theta_{l} \prod_{i=1, i\neq l}^{k-1} \sin \theta_{i} & (k=1, \ldots, d-1, l <k-1) \\
– r \prod_{i=1}^{k} \sin \theta_{i} & (k=1, \ldots, d-1, l =k-1) \\
0 &(k=1, \ldots, d-1, l >k-1) \\
\cos \theta_{l} \prod_{i=1, i\neq l}^{d-1} \sin \theta_{i} & (k=d)
\end{cases}
\end{align}
これを用いてヤコビアンを書いてみます。
\begin{align}
&\frac{\partial (x_{1}, \ldots , x_{d})}{\partial (r, \theta_{1}, \ldots, \theta_{d-1})} = \left| \begin{array}{cccc}
\frac{\partial x_{1}}{\partial r} & \frac{\partial x_{1}}{\partial \theta_{1}} & \cdots & \frac{\partial x_{1}}{\partial \theta_{d-1}} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
\frac{\partial x_{d}}{\partial r} & \frac{\partial x_{d}}{\partial \theta_{1}} & \cdots & \frac{\partial x_{d}}{\partial \theta_{d-1}}
\end{array} \right| \\
&= \left| \begin{array}{ccccc}
\cos \theta_{1} & -r\sin \theta_{1} & 0 & \cdots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \ddots & \vdots \\
\cos \theta_{d-2} \prod_{i=1}^{d-3} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{d-2} \cos \theta_{1} \prod_{i=2}^{d-3} \sin \theta_{i} & \cdots & – r \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} & 0 \\
\cos \theta_{d-1} \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{d-1} \cos \theta_{1} \prod_{i=2}^{d-2} \sin \theta_{i} & \cdots & r \cos \theta_{d-1} \cos \theta_{d-2} \prod_{i=1}^{d-3} \sin \theta_{i} & – r \prod_{i=1}^{d-1} \sin \theta_{i} \\
\prod_{i=1}^{d-1} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{1} \prod_{i=2}^{d-1} \sin \theta_{i} & \cdots & r \cos \theta_{d-2} \prod_{i=1, i\neq d-2}^{d-1} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{d-1} \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i}
\end{array} \right|
\end{align}
このように大きいサイズの行列式を算出する場合は余因子展開します。
今後の漸化式のために$\mathcal{A}_{d} := \frac{\partial (\varphi_{1}, \ldots, \varphi_{d})}{\partial (\xi_{1}, \ldots, \xi_{d})}$として計算していきましょう。
$0$の多い右端の列($d$列目)で余因子展開すれば
\begin{align}
|\mathcal{A}_{d}| &= (-1)^{2d-1} \tilde{a}_{d-1,d} (- r \prod_{i=1}^{d-1} \sin \theta_{i}) + (-1)^{2d} \tilde{a}_{d,d} r \cos \theta_{d-1} \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} \\
&= r \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} (\tilde{a}_{d-1,d} \sin \theta_{d-1} + \tilde{a}_{d,d} \cos \theta_{d-1})
\end{align}
ここで$\tilde{a}_{i,j}$は$\mathcal{A}_{d}$の$(i,j)$余因子です。
では次に$\tilde{a}_{d-1,d}$と$\tilde{a}_{d,d}$を求めてみましょう。
まず$\tilde{a}_{d-1,d}$です。
\begin{align}
\tilde{a}_{d-1,d} &= \left| \begin{array}{cccc}
\cos \theta_{1} & -r\sin \theta_{1} & \boldsymbol{0} & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \boldsymbol{0} \\
\cos \theta_{d-2} \prod_{i=1}^{d-3} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{d-2} \cos \theta_{1} \Pi_{i=2}^{d-3} \sin \theta_{i} & \cdots & – r \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} \\
\Pi_{i=1}^{d-1} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{1} \prod_{i=2}^{d-1} \sin \theta_{i} & \cdots & r \cos \theta_{d-2} \prod_{i=1, i\neq d-2}^{d-1} \sin \theta_{i}
\end{array} \right| \\
&= |\mathcal{A}_{d-1}| \sin \theta_{d-1}
\end{align}
となります。最後の等式では$d-1$行目に共通して$\sin \theta_{d-1}$が含まれている事を利用しています。
$d-1$行目から$\sin \theta_{d-1}$を除いた行列式が$|\mathcal{A}_{d-1}|$となっている事はよく見れば分かりますね。
では次に$\tilde{a}_{d,d}$です。
\begin{align}
\tilde{a}_{d,d} &= \left| \begin{array}{cccc}
\cos \theta_{1} & -r\sin \theta_{1} & \boldsymbol{0} & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \boldsymbol{0} \\
\cos \theta_{d-2} \prod_{i=1}^{d-3} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{d-2} \cos \theta_{1} \prod_{i=2}^{d-3} \sin \theta_{i} & \cdots & – r \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} \\
\cos \theta_{d-1} \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} & r \cos \theta_{d-1} \cos \theta_{1} \prod_{i=2}^{d-2} \sin \theta_{i} & \cdots & r \cos \theta_{d-1} \cos \theta_{d-2} \prod_{i=1}^{d-3} \sin \theta_{i}
\end{array} \right| \\
&= |\mathcal{A}_{d-1}| \cos \theta_{d-1}
\end{align}
となります。殆ど同様にできました。
これより$\mathcal{A}_{d}$の行列式は
\begin{align}
|\mathcal{A}_{d}| &= r \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} (|\mathcal{A}_{d-1}| \sin^{2} \theta_{d-1} + |\mathcal{A}_{d-1}| \cos^{2} \theta_{d-1}) \\
&= r \prod_{i=1}^{d-2} \sin \theta_{i} |\mathcal{A}_{d-1}|
\end{align}
です。これで漸化式が出来ました!
あとは初期値を求めれば良いので$d=2$のときを考えてみると
$$
\begin{cases}
x_{1} = r \cos \theta \\
x_{2} = r \sin \theta
\end{cases}
$$
なので
\begin{align}
|\mathcal{A}_{2}| &= \left| \begin{array}{cc}
\frac{\partial x_{1}}{\partial r} & \frac{\partial x_{1}}{\partial \theta} \\
\frac{\partial x_{2}}{\partial r} & \frac{\partial x_{2}}{\partial \theta}
\end{array} \right| \\
&= \left| \begin{array}{cc}
\cos \theta & -r \sin \theta \\
\sin \theta & r \cos \theta
\end{array} \right| = r
\end{align}
となります。これはよく知られた結果ですね。
これを用いて一般の$d>2$では
\begin{align}
|\mathcal{A}_{d}| &= |\mathcal{A}_{2}| \prod_{k=3}^{d} \{ r \prod_{i=1}^{k-2} \sin \theta_{i} \} \\
&= r^{d-1} \prod_{i=1}^{d-2} \sin^{d-i-1} \theta_{i} \\
&(= r^{d-1} \sin^{d-2} \theta_{1} \sin^{d-3} \theta_{2} \cdots \sin \theta_{d-2})
\end{align}
となります。
実際$d=3$として代入すれば
$$
|\mathcal{A}_{3}| = r^{2} \sin \theta_{1}
$$
ですので正しそうですね。
以上から一般$d$次元上の極座標を用いた積分は次のように書けます。
$$
\int_{\mathbb{R}^{d}} f(\boldsymbol{x}) d\boldsymbol{x} = \int_{0}^{2\pi} \! \int_{0}^{\pi} \! \int_{0}^{\infty} f(r, \theta_{1}, \ldots, \theta_{d-1}) r^{d-1} \prod_{i=1}^{d-2} \sin^{d-i-1} \theta_{i} dr d\theta_{1} \cdots d\theta_{d-1}
$$
まとめ
本記事では一般次元上の極座標への置換積分についてご紹介しました。
物理現象を考えると,しばしば高次元空間においても動径方向関数や角度関数が現れますので覚えておくと良いかと思います。
重積分や積分の一般論を勉強したい場合は次の書籍がオススメです。
この記事がいつか誰かの役に立てば幸いです。
それではお疲れ様でした!